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4章 パーティヘ 来賓集う 6 ハンベ 生きる目的
6 ハンベ  生きる目的

 彼女が、これほどまでに生々しい感情を高ぶらせることは経験したことがない。

 ファムケは、常に感情的に振舞ってはいる。

 けれども、それは我々に対する指揮、その場面、状況を考え、
一番相応しい感情を選択しているのであろう。

 かと言って、ファムケ・ビッケル、彼女は偽りの人物像を創りあげているわけではない。

 その全てが、彼女であり、
 ポーズの裏の彼女の真意、そして気持ちを、私は理解しているつもりだ。
 我々はと言った方が良いのかもしれないが、私はを強調したい。
 
 賢く、聡く、人の気持ちを理解できる。

 それ故に、人それぞれの感情を深く考えてしまう。
 彼女の理想とするものと、それは相反することが多いのであろう。
 情に溺れる自分が苦手で、時に自分に反し冷たい態度を取ることもある。

 そういう事後の彼女の横顔は、いつもよりも寂しそうに見える。



 私が彼女に出会ったのは、三年前、もう三年にもなるか。

 私はどうやら主人に疎まれる性質のようだ。

 それに気付いたのは、牢の中だった。

 海水から起因する湿気が強く、陽射しもない、飯も臭い。
 早く処罰してくれた方が、気も楽になるものだとさえ思い始めていた。

 私は、口下手で、愛想が良くない。そして、人より少しばかり戦働きに優れている。

 

 つまらない僻みで主人に命を奪われかけ、国を出奔したのだが、
辿り着いたアユタヤでも、またもや同じ目にあっていた。



 知人の口利きで傭兵隊に入り、いつの間にやら傭兵隊長。
 しかし、オーナーに気に入られることはなかった。

 謀反だと、そんな野心は持ったことは今までの生涯で一度もない。

 ただ静かに暮らしさえすればそれで良かった。 

 ただの言いがかりだ。

 しかし、牢の中で悟ったことがある。

 目立ってはいけない。目立つからには、保身が上手くなくてはいけない。
 それが出来なければ、遅かれ早かれ疎まれると。
 
 切れ者、切れ者と周囲から言われてはいたが、実の所、とことん抜けていたのだ。

 私、一人ならば、どうにか切り抜ける事も出来たであろう。

 しかし、この地に住まう同胞達は、私と同じ・・・…帰れる地を持っていない者ばかりであった。

 この地を追われたら…近しい渡世を歩んできたからだろうか、世話になった者達も多い。

 私は大人しく、囚われる道を選択した。
 
 人に仕え、人に疎まれる。
 そういう人生だったのあろう。

 国を追われるように去り、人生五十年の六割を過ぎ、思い残すことも少なかった。

 しかし、偶然にもアユタヤと商売をしていた彼女、ファムケ・ビッケルにその窮地を救われた。

 どういう経緯か、事情かは分からない。
 私の現況と助命を、同朋が彼女に伝えたのかもしれない。
 それはいい。

 私は、その時から、彼女の船に乗るようになった。

 他に行き先もなかった。

 彼女のたどたどしい、アユタヤの言葉。
「私と来ないか?」

 その言葉に頷くもなしに、船に乗っていた。

 彼女は、私を救うために法外な財産を差し出したのであろう。
 その事については、何も聞いてはいないし、聞いたこともない。

 ただ、自由を許された船内に、他国との貿易をしたらしき痕跡が見られなかった。


 彼女は、私の才能に僻むことはない。
 野心の方向が、普通とは違う方向に向いているからだろうと、後に気付いた。

 そして私の欠点に対して目を瞑らない。

 そう易々と改善できるものではないのだが、図々しくも口に出してもらった方が、私の居心地も良くなる。


 元より命を救われた身。

 それだけではない。
 何より、彼女の話を聞くのが楽しかった。彼女の手助けをするのが心地よかった。

 ファムケ・ビッケルという人間に惹かれたのだ。

 自分の目的を持ち、海を行く彼女に。

 自分に厳しく自制をし、思い悩み、葛藤の中に生きる彼女に。

 そう、私に目的というものができた。

 その私の目的が、今、生の感情を吐き出している。

 感情を選択する人生。それを選んだ彼女にとっては、余計な一歩かもしれない。

 しかし、その一歩が、私には嬉しかった。

 その一歩は、私たちでは引き出せなかった一歩である。

 その一歩は、彼女の目的の足枷になるだろう。

 今は、ただ重しとしての足枷かもしれないが、きっと、それは大きな財産になる。

 道程が困難になろうとも、私も彼女と一緒に海を行く。

 幾ばくかの困難は、私がどうにかしよう。

 私が生かされているのは、この為だった。


 戦列艦が迫る。


 私は、操舵を他の者に任せ、側弦に向かった。

 この船の人間は、戦働きに慣れてはいない。

 私の他には、そうカタラーナ、彼女くらいだろうか、戦場での経験を有すのは。

 鍵爪付きのロープを受け取ると、遥か頭上、戦列艦の側弦に向け投げ放つ。

 グイグイと力を込め、ロープの端を引く。

 掛かった。

 それを見ていたか、合図も無しに、カタラーナが舫綱を口に咥えながら攀じ登る。

 裾の長い黒いロングドレスを着ていたのだが、それは動きやすいように切られ、纏められていた。

 いつもは騒がしく、落ち付きのない彼女だが、こういう場面では頼りになる。

 彼女が加える綱の一端を側弦に固定し、ファムケの方を向いた

 ここまで来たら、接弦の用意は適ったようなものである。

「ファムケ、船上は危険です。私とカタラーナの合図に従ってから他の者と一緒に来て下さい」
 彼女の灰色の目を見つめる。

「うん、わかっている。今日はありがとう、ハンベ」
 いつもの、朝の涙とは違う涙が、再び彼女の眼から零れ落ちそうではないか。

「ありがとうはまだ早いです」
 ファムケから顔を逸らすように、遥か高き戦列艦側弦、カタラーナの消えた行方を仰ぎ見る。

 側弦から、ひょこっと顔を出した彼女の顎が、しっかりと頷いた。
 渡し綱が掛かった。

 振り返らないようにファムケに向けて右手を挙げる。

「ファムケの周りを固めながら、私に続いてくれ」

 男は、女の涙を見るのが苦手なものだ。


7. カタラーナ 絶対死にません






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