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4章 パーティへ 来賓集う 10 Sight of Sea 平静へ
10 海  平静へ

 ポッコロの顎が微かに上下した。
 その様子を映す鳶色の瞳、ピンキィも頷く。
「終わりら。良くぞここまで手古摺らせてくれた」
 ピンキィは、一人自嘲すると、左足に跳躍のための力を入れた。

 この一撃を先ほど弾いたのは、ポッコロがカトラスを交えている、この老人。

 彼女の、渾身の一撃を遮る者はそういない。

 彼女は、老人に敬意を覚えていた。
 しかし、それとこれとは別。いや、それだからこそか。手を抜くつもりはなかった。

 正直、手の抜きようもない状況。

 敵兵の反抗は停まっている。

 男はポッコロが支えている。

 誰も邪魔をする者はいない。

 手を抜こうが抜くまいが、剣の覚えがある者なら、誰でも老人を貫ける。

 彼女の冷静な目は、エペが喉首を貫く数秒後の未来を描いていた。

 その未来通りに、剣先が改めて目標を捉えた。

 力を込めた左足の筋肉が縮み、歪み、そして伸びる。
 それに前後して、エペを持つ右手、右足も伸びる。
 シュっと風を切る音が放たれた。

 ここまで来たら、何も遮るものはない。

 のはずだった。

 しかし、それらは飛んできた。

 ピンキィの右視界に一瞬の内に、何かが入る。
 左視界には、彼女とエペの間の男が遠ざかる、
つまり男は遠ざかり、ポッコロが弾け飛ばされる絵が映る。

 情報を整理する間もなく、エペに途轍もない圧力が掛かり、その圧力によりエペは彼女の手を離れた。
 しまったと思う間もなく、彼女は剣が飛ぶ方向を瞬間的に確認し、身体を転がす。

「ぬぅ」
 唸りを上げて、エペの柄を握りなおし、体勢を立て直す。

 その方向には、黒いバンダナがユラユラと宙に浮いている。
 そして、ゆっくりと甲板に落ちた。

 ピンキィは、その落ちる様を見送ってから、ゆっくりと顔を上げた。

 彼女のエペを弾け飛ばしたた何かは、
バンダナから解かれたオレンジ色の髪をキラキラと乱れ散らす一人の女性。

 昨日、ピンキィの話を聞いてくれた、何故だか判らないが、心を委ねることが出来た女性、カタラーナ。
「カ、カタラーナ、なぜなのら」
 ピンキィは吠えた。怒りに、悲しみに、驚きに、吠えた。
 叫びつつ、彼女はポッコロも視界にいれた。

 ポッコロも、崩された腰を持ち上げて剣を握っているが、
その紅い瞳は醒め、口を半開きで、ポッコロを吹き飛ばした何かを見つめ佇んでいた。

 彼女と老人の間を割り、両者を弾き飛ばしたのは一人の男。

 片刃の見慣れない剣を手にし、隙のない構えのまま動かない。

 名前は知らないが、その男も、ファムケ・ビッケルに付き添い従っていた黒髪、メガネの男。

 ピンキィは、視線を改めてカタラーナに合わせる。

 その視線を追うように、ポンキィも呆けた顔で、カタラーナを見つめた。

 カタラーナは、昨晩と同じ優しい笑みを浮かべている。

 手にしたアベンジャーを、その手から零れ落とした。重量のある金属の鈍い音が甲板に響く。

「ファムが、来ました」
 そう言って彼女の眼は、人波をを掻き分けて、へたり込む一人の女性を指した。

 その黒の髪は、昨日の完璧な淑女スタイルとは違い、
海風に吹かれ、弾ける海水に触れ、汗に浸り、縮れ、乱れ、頬に張り付いてさえいる。

 その女性は、息を整え、腰を浮かし、呟いた。
「もう、もう終わりでいいじゃない」
 そして、涙を零しながら、叫んだ。

「もう終わり。私が見届けた。チミッコの勝ち、サンキムルナの負け。これ以上、殺し合いはたくさんよ」

 ポッコロが、いち早くカトラスを落とした。

 そして、カタラーナに駆け寄り抱きつく。
「ポンキィ姉が、ピッコロちゃんが、まだ中にいるのら」

 そのまま、声にならない声を上げて嗚咽を漏らす。

 それを見て、老人はサーブルを海に向かって投げ捨てた。
「申し訳ない、我々の負けであります。仲介のファムケ・ビッケル氏に感謝。
皆、我々の負けだ、責任は、このボブが取る。獲物を捨てよ」
 その声に、顔を見合わせ、そもそも戦意は既に失せていた。
ルナ氏の私兵達は、剣を投げ捨て、その場に座り込んだ。

「ピンキィも、もう傷つけあわないで。生きている人を救うことが先決よ」
 ピンキィはエペの柄を強く、強く、二度握り返し、その刃を鞘に収めた。

 その瞳から零れ落ちる涙が、頬に付着する血色を押し流し、首筋まで流れていた。


11. ファムケ・ビッケル 終わりにしよう









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