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4章 パーティへ 来賓集う 13 Sight of Sea 姉妹たち
13 Sight of Sea 姉妹たち

「ふぅ、間に合ったのら」

 何が間に合ったのだろうか?
 ピッコロにも、当然、部屋の誰にも、何が間に合ったか、その声が意味する事が理解できなかった。

 いや、ニーナの涼しげなブラウンの瞳だけが、若干険しさを覚えているような感じがする。
 彼女にだけが、全てが見えているようだ。

 この部屋の人数。
 立っているのは二人の騎士、いずれも満身創痍と、フィフスルナ、ニーナ、そして三人の男。

 この部屋の状況。
 振り下ろされるニーナの釵が、ピッコロに苦しみを与えぬように、一撃で急所を捉えているはずだった。

 この部屋の人間から発せられた声ではないし、この部屋から生まれた状況ではなかった。

 しかし、その声は確かに響いた。部屋にいる全ての者が聞いている。
 そして、振り下ろされる方の釵の谷間にはカットラスが捻じ込まれ、
もう一方の釵はサーブルに絡まれていた。

 彼らは階下より、疾風のごとき駆けこんできた。
 カットラスを持つ少女、サーブルを持つ青年、新たに二人が、この部屋の登場人物として登録されたようだ。

「来賓か」 
 その言葉と共に息を吐き出したサンキムルナは、僅かに安堵の表情を浮かべ、また表情を消した。

「ナーイスタイミングでしてよー」

「ピッコロさま、お立ちください。あなたはまだ闘えるでしょうに」
 皮肉たっぷりなニーナの声を遮るように、サーブルで必死に釵を押える青年は叫ぶ。


「あ、あ、あ」
 その声に反応したのか、色を失ったピッコロの瞳に光が戻り、何かを呟く。

「ア、ア、ア、アイレス!」
 呟きは失っていた感情を起こし、その青年の名前を叫んだ。
 
「さぁ、涙を拭ってください、立って。私は、貴方をそんな弱虫に育てましたか?」
 先ほど、僅かに険が射したニーナの表情であったが、今は何も変わらない。
 アイレスと呼ばれる青年のサーブルを左手で、僅かに支えるように押さえつけ、
少女のカットラスを捩じ伏せようという状況であるのに、上品な人の良さそうな笑顔に曇りはない。
 そんな彼女の相手をしているアイレスだからこそ、ピッコロに顔を向ける余裕はなかった。
それどころか声を発する事さえ難しい。だが、己の主君を立たせるために、必死で声を送った。 

「みんな、みんな死んじゃったのら、みんな」
 しかし、ピッコロは立てない。
束の間の安堵感、そして死を目前としていた緊張感が僅かにだが溶けた十を越さないであろう少女に、
すぐ立て、戦えと言うのは酷なのかもしれない。

 しかし、それは許されなかった。
 這い蹲るピッコロの顎を、カットラスを両手で支える少女が無言で蹴飛ばす。

「グゲッ、ナノラ」
 壁際に弾け飛ぶ、ピッコロ。

「私も、お前も未だ生きている。それが全てなのら」

「ポ、ポンキィ姉」
 驚愕、視線を泳がせながらもニーナと対峙している、ポンキィの背中を見つめた。

「アイレスも、私も、ピンキィも、ポッコロも、みんなも!
お前は、みんなが、死ぬのを、ただ見ているというのらか?」
 途切れ途切れに言葉を吐き出す。言葉のたびに、新たに力を入れ直しているのだが微動だにしない。
 
「ふふん、少しは歯応えがありそうだわね、あなたがお姉ちゃんなのかしら?」
 両手で二人の全力を支えているのにも関わらず、主導権はニーナが握っている。
 ニーナの両腕、それぞれが動く方向に、二人はダンスを踊るかのように振り回されるのだった。

「お初にお目にかかる、チミッコ海賊団頭領、ポンキィなのら」
 彼女の頬がぷくっと膨れる。

 その口から息を少しづつ吐き出して、視線をサンキムルナに向けた。
「それにしてもフランス人、お前、凄い秘密兵器を隠し持っていたのらね」

「紹介を忘れていましたね、私の副官ニーナです。」
 仕切り直しでサーベルを構えなおす、サンキムルナ。そのがっしりとした肩が上下に揺れている。
 流石の伊達男である彼にも、それを隠す余裕はないようである。

 それも当然、ニーナと、彼女に引きずりまわされる二人を中心に分かれる両陣営。
 全員が満身創痍。
 ポンキィとアイレスが発生させてエアーポケット。
 この僅かな魂の選択に、出来るだけ息を、態勢を整えようと、皆が皆必死であった。

 そう、戦争は未だ終わっていない。

 しかし、未だに二人の剣を余裕で受けているニーナだけが、息を弾ませていなかった。
「はじめまして、そして最後になりますわね、ニーナと申します」
 そう、ニコっと、天使のように。明るいブラウンの瞳が上品そうに歪む。
戦場では、不自然な笑みをポンキィに送ると同時に、
彼女の釵は、強引に両方の刃を跳ね返し、二人を壁際に弾き飛ばした。

 そのまま、踵を返し、風のように、ポンキィに向けて突進するニーナ。

「くうーっ!」
 歯を食いしばるポンキィの視線には二つの釵が迫る。

 時が止まる。即座に反応する事は、常識的に考えて難しいはずだ。
誰もがニーナの動きを目で追うのが精一杯。
 しかし、その中でもいち早くピッコロが再びシミターを手に取り、跳ね跳んだ。
 助けられるか、間に合うか、正確にタイミングは際どい。

「やらせないのら! これ以上」
 しかし、姉に受けた叱責が彼女を動かした。何もせずに姉を死なす事は出来ない。
恐怖、怨嗟、絶望、そういったマイナスの気持ちに囚われてはいたが、
自分への怒りと悔恨、その気持ちが声に出ていた。
 
 その声に先んじて、もう一つの声。
「ニーナ姉さま!」
 室内には無かった声が、外からの風と共に舞い込んだ。

 二つの声。
 それぞれの声の後に金属同士がぶつかり合う音が、それぞれの耳に木霊した。
 二つの音。
 その音の先。皆の視線に金属の火花が踊り舞っていた。
 
 一つはピッコロのシミター、それはニーナが左手に握る釵を、しっかりと弾いていた。
 そしてもう一つはポンキィの目前に迫る釵を叩き落とす小型の鉈。
 そう、それはアベンジャー、復讐者と呼ばれる武器であったが、今この場では救世主の役割を示していた。

 ゆっくりと……今日、初めて、釵がニーナの手から零れおちる。

 それは美しい音を響かせながら、床に何度か弾んだ。

 咄嗟に壁際に退くニーナ。
「あらあら、お久しぶりじゃない、カタラーナちゃん」

 全員の視線が落ちた釵に集まり、それからアベンジャーを持つ手、その持ち主に注がれる。
「お姉さま、やりすぎです」
 その黒いバンダナは再び外れ、オレンジ色の癖っ毛がゆっくりと舞い踊っている。

「カタラーナ!」
 ピッコロが涙交じりの声を投げかける。
 先ほどから泣きべそ交じりだったのだが、声音に聞こえる感情が今までとは明らかに違う。
 それは安堵と歓喜。

 カタラーナは、その声に応えるかのように、涙に暮れるピッコロを、ぎゅっと抱きしめた。
「遅くなりました。ごめんね」
 胸の中で、うんうん頭を振るピッコロを愛おしく感じたのであろう。
アベンジャーを構える右手で、改めて、彼女の肩を抱く。

「カタラーナ、あまり甘やかすななのら」
 態勢を立て直したポンキィが、カットラスを構えなおし、カタラーナの斜め前方に飛び跳ねる。

「すいません」
 罰の悪そうな顔を浮かべたが、それでもピッコロを抱く手を解きはしなかった」

「しかし、助かった。礼を言うのら」

「お礼ならファムに。ファムがみんなのところに行きたいって。私も駆けつけたかったですけどね」

「それは嬉しいのら。それにしても……あれは……お前の姉上らのか」
 ピッコロはニーナを睨みつけたが、彼女の威力を思い出したのだろうか、
その表情はすぐにげっそりとしたものに変化した。

「はは……ははは……はは」
 カタラーナの乾いた笑みが部屋に溢れた。

「あら、その笑いは何かしらね、カタラーナちゃん」
 響く笑みに、肩を竦めてみせるニーナも既に興が醒めたと見える。

「そろそろお開きかしらね。お客様が集まってきますわよ、お出迎えの準備は如何です、艦長」
 そうサンキムルナを振り返りながら、もう片方の釵を無造作に放り投げた。
 先ほどのような音楽的な美しい音はならず、ただ鉄の鈍い音が床に響く。

 それを見て、全ての者が武器を投げ捨てる。

 サンキムルナは、サーベルを大事そうに鞘に納めると、両手を上げておどけてみせる。

「この様ではな。湯浴みでもして、身なりを整えたい所だが、そうもいかないであろう。
カタラーナ殿、ファムには、サンキムルナがお出迎えの不備を嘆いていたと、追々伝えてくれたまえよ」

 カタラーナは、サンキムルナを下から上へと見上げた。
 いつもダンディに決め込んでいるサンキムルナの漆黒のプールポワンだが、
至る所に裂け目が生まれ、肌が露出している箇所さえ見られた。
その端正な顔、右頬には、血が生渇きの大きな切り傷。

「お気になさらずに。ファムも、もう普段見れないようなとんでもない顔でやって来ると思いますし……」
 彼女は、心得た顔で、ニヤリとほほ笑む。

「ファムが来るのら?」
 ポンキィの瞳が輝く。

「えぇ、もう到着するはずです、ほら」
 カタラーナの笑顔の向こう側から、ダンダンと床を駆ける音が近づき、
そして大きくなって、その音が扉を開けた。

 皆の視線が集まる扉の向こう側から、肩を揺らし、弾む息もそのままにファムが飛び込んできた。そして、そのまま床に膝を落とす。はぁはぁという、大きく息を吸う音。その音は、続いて駆けこんでくる、ピンキィ、ポッコロ、そしてボブ、誰もが皆、同じ状態であった。

 顔を床に落としたまま、胸を抑えて、鼓動を落ち着け、何度も息を吸い直す。
「ポンキィ、ピッコロ、無事なの、大丈夫なの?」
 そうして、ようやくファムは、吐き出すように言葉を紡いだ。

「ありがとなのら、たったいまカタラーナに助けられたところら」
 ファムの視線に合わせるようにしゃがみ込むポンキィ。
その顔には、姉でもなく、海賊団の頭領でもなく、一人の少女としての笑顔が浮かんでいた。

「良かった、……たん、だよ」
 最悪の想像までした、その顔、その瞳、そして思いがけぬ笑顔を前に、
ファムがまともに言葉を吐き出す事は叶わなかった。

14.ファムケ・ビッケル パーティへ 来賓集うu>









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