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4章 パーティへ 来賓集う 9 ファムケ・ビッケル 叫ぶ喚くまた叫ぶ
9 ファムケ・ビッケル 叫ぶ喚くまた叫ぶ

 カタラーナとハンベの二人のお陰で、接弦の準備は整った。
 船上からは、剣戟、銃声が風に乗り聞こえてくる。
 その彼方にピッコロが、私の友人達がいる。
 逸る心が、私の身体中に冷たい汗を掻かせる。
 急がないと、皆の命が危うい。鼓動が物凄いことになっている。
 酸素が足りない。クラクラする。

「ファムケ様、落ち付いて。焦らないで」
 クルーに肩を抱きかかえられる。

 足もとに力を込める。
 うん。
「うん、大丈夫。ありがと」

 戦列艦の側弦を再び見上げた。
 遥か高みにカタラーナの顔が覗いた。笑顔。無事なのね。そして、確かに頷く。
 ハンベの顔を見る。
 彼も、私を見つめ、しっかりと頷いてくれた。
「行きます。レルフとアドリアーノは、しっかりとファムケの両脇を固める。皆は、私に続け。
ファムケは落ち付いて。あなたが浮ついた行動を取ると、クルーの皆が危険に晒される」

 そうだ。私が逸早く参じても、皆が危険に晒されては元も子もないじゃない。
 戦場は数多く体験しているけれども、私には何の能力もない。
 皆の足を引っ張らずに行くことが重要だった。  
         
 両脇の二人が、笑顔で頷いてくれる。
 うん、皆は私の気持ちを理解してくれている。皆が私だ。
「うん、わかっている」

「私も皆も気持ちは同じです。この騒乱を終わらせましょう」
 ハンベの声に、周囲の皆も頷いて答えてくれる。

 声にならなかった。ただ頷くのみ。顔も拭えない。涙が止まらないよ。

 ハンベが、先行して渡し綱を半腰で進むのが見える。
 片手には片刃の剣を持ち、片手で器用に体を運ぶ。

 私はもちろん両手で、しかもレルフとアドリアーノの手を度々借りて、
ようやく壁弦に手が届いた。

 そこにぎゅっと、しっかり両手を掛け、力いっぱい身体を持ち上げ・・・・・・
その手首がふいに柔らかく掴まれ、持ち上げられた。

 そこには、いつものカタラーナ。
 でもいつも無理をするからな。引っ張りあげられながら、彼女の身体を上から下まで確認する。
 大丈夫、怪我とかはないみたい。
「ありがとう」

「ファム、お疲れ様。あちらです」
 私はカタラーナに体を預けるように甲板に降り、彼女の指す方向に顔を向けた。

 そこは。そこには。

 既に終盤戦のようだ。

 船内に立ち入れさせまいとするルナ氏の私兵達を、チミッコ海賊団が囲んでいる。
 戦列艦には、海兵隊、砲術士を含め、通常八百名近い人員が乗り込んでいることが通常なのだが、
人員に勝ったのは、実戦を積んだ海賊だった。

 甲板には多くの死体、そして傷を負った唸り声、血の臭気。
 まさに混沌が展開していた。

 この混沌に持ち込めばと、私はポンキィにアドバイスをした。

 しかし、混沌に持ち込むには多くの血が、私の友人達、そして関わりを有す者達の血が必要だった。

 頭では解っていた。

 人の死というものは全て同じと嘯いていた私が、酷く気持ち悪く感じる。
 確かに同じかもしれない。だが、今やそれは非常に重い。

「みんな、治療をお願い。出来るだけ助けたい」
 私は、駆けつけたい心を抑え、船に上がったクルーに叫ぶ。

 それと同時に、皆は駆ける。

「カタラーナ、ハンベ、どうしよう」
 喚いた、泣き喚いた。
 私には、押さえる力はない。そしてなにもわからない。

 二人は何も言わずに駆けた。

 私も駆けた。叫びながら駆けた。何も出来ないけど、足を引っ張るだけなのかもしれないけれども。

「もう止めようよ、みんなたくさん殺したじゃないか」

 カタラーナとハンベが武器を手に人の森をすり抜けていく。

 それに呆気に取られる男たちの背後に、息を切らせてようやく辿り着いた。

「開けて、もういいじゃない。誰も死ななくてもいいじゃない」
 私の顔に一瞬驚いた顔を見せたが、また険しい顔に立ち戻る。
 そして、誰もが顎で指すように私にある一点を示した。

 
 ピンキィがエペを構えている。

 ルナ氏の私兵達は一人の男を見守っていた。
 ほとんどの者の目に生気はない。

 その男の死が、甲板での終焉を意味するからであろうと私は悟った。
 しかし、終焉イコール生存ではないことを、皆が皆、悟っているようでもある。

 その一人、やや年老いた男がポッコロのカトラスを必死に支えている。

 両者とも、互角に感じる。

 しかし、傍らのピンキィの冷静な目。

 カトラスを交えているポッコロの目はルビーの様に燃えているが、
彼女の眼は普段の鳶色の瞳に戻っている。

 彼女の眼は、そしてエペは、彼の首筋を確実に捉えるだろう。
 止めなくちゃ、でも、これしか出来ない、私には。

「カタラーナ、ハンベ」
 私には叫ぶしか、彼らの名前を叫ぶしか方法が無かった。

 私は男たちを掻き分けながら叫んだ。


10. Sight of Sea 平静へ








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