海、そう、それが我々の世界だ
未来に広がる、昔の話。その一幕


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4章 パーティヘ 来賓集う 4 サンキムルナ パーティの始まり
4 サンキムルナ  パーティの始まり

 船尾楼の下に位置する操舵室
 船内に立ち入るには、厚いオーク製の扉があったはずだが
……念のために錠も施したはずだが、俺は思わず噴き出しそうになった。

 扉の跡形もない。形骸も留めていない。

 俺が相手をしているのは感情を持つ嵐だった。
 いや、それは意識していたのだが、手のひらで転がせると思っていた。

 ふん、反省をしても仕方がない
 今回は残念ながら負けだ。

 だが完全な負けを掴む前に、俺の首が飛ぶ前に、
判定負け、申し訳ないってところまではまだ持ち込める。

 俺は船内へ、足音を殺しつつ滑り込んだ。

……。
…………。
………………。
……………………。

絶句。


言葉にならない。


 航海前に新調したビロードの絨毯が滅茶苦茶に踏み荒らされて台無しだ。
 ジェノヴァの紡績商を総動員したのに。

 命の危機に瀕しているのに、こんな馬鹿げたことを思う余裕があるなんて、
先ほどまで、逃げ場はないと言っていた奴と同じなのか。

 可笑しくなって口元に笑みが出ているのが自分でも認識できる。
 どうやら俺は、完全に自分を取り戻しているようだ。

 俺は慎重に、扉を一つずつ開けて行った。
 操舵室へはメインの通路を真っ直ぐ。
 突き当りの階段を登ればいいのだが、一人で乗り込むのは無謀。

 そんなヒーローは物語の中だけで、実際行動すればシミターで三枚に下ろされるのが関の山だ。

 チミッコの彼女らが船内に突入をした時に、全面抵抗をしたのか、
それとも情けなく降伏した者もいたのか。俺の中では、情けなく降伏した者を評価したい。

 死んだら終わりだ。
 俺はルールを犯した者に懲罰として処刑を命ずる事もあるが、死が前提の命令を下したことはない。

 三つめの扉の前にたどり着くと、中には血色のフロアーリング。
 その彩りの発生源。
 倒れこんだ数体の死体。

 そして憐れにも縛られた幾人が、俺の顔を情けなさそうに見つめている。

 BINGO。
 よしよし、上出来だ。

 俺はサーブルで彼らの足轡と手枷を切り捨てた。

「お、お館さま、申し訳ありません」
 年嵩の航海員が頭を床につけ這い蹲る。

「敵わぬと判断することは優れている。無駄死には愚かだ」

「それでは」
 この状況で許す、許さない言っている場合ではなかろう。
 俺は振り返り、彼らから視線を外した。

「ふん、外は敵に圧されている。降伏する間もなく切り倒されるであろうな」

「……」
 そうだ、押し黙ってよく考えろ。

「操舵室の敵勢は幾人くらいと思われるか?」

「一〇人ほどかと」

「外で無駄に死ぬか、操舵室で生きるか死ぬかの、二択だ。好きな方を選べ」
 俺は彼らに視線を向ける。

 死んだ奴よりは有能だが、いかんせん能力には人それぞれ限界がある。

「はっ???」
「帆も舵も生きている。アンカーも下ろされてはいない。
未だ終わりじゃない。この窮余を俺は脱するつもりだ」
 ここまで言わせて、ようやく彼らは俺が何を言っているのかを理解したようだ。

 さりげなく互いの目を盗み、大勢を得ようとしている。

 その中の一人、先ほどの年嵩の航海長の視線が動いていないことを俺は確認した。

 俺は彼に目を合わせ、顎をクイっと揺らし、合図を送る。
「はっ、お館さまと生き残るほうを選びます」

「ふむ、その心は」

「彼ら、敵船員は我々に並々ならない敵意を持っております。
先ほどは幸運にも降伏を選択し、捕虜となりましたが、
鹵獲された我が艦が牽引された後、我々は奴隷として売られるか、殺されるかのどちらかだと判断します」

「であろうな」

 年嵩の彼の意見に他の者の決意も固まったようだ。
「それならばお館さまと万が一にも脱出を図る方が……」

「私もご一緒します」

「俺も行かせてください」

「俺も……」
 個々の能力が有るに越したことはないが、今必要なのは人数だ。

 俺は頭を下げた

「頼む、私に力を貸してくれ」
 彼らは跪く。跪かねばならない状況なのだ。

 この状況で、打算は働かない。薄ら賢い奴は、海賊の目前で俺を売るかもしれない。

 しかし、そいつも殺されるであろう。
 彼らの恨み、暴力は、想像以上であるはずだ。

 俺達は、部屋を出て操舵室へ向かった。

 入り組んだ室内を慎重に歩み、ようやく操舵室と言うところまでたどり着いたところで、
俺は階下から、上ってくるプレッシャーを感じた。

「停まれ!なにかいる」
 俺は両手を広げ、後続を抑えた。

 俺の一声に、全員は止まり後ずさる。

 こいつらは、海賊が待ち受けているとでも思っただろうが、それよりも性質が悪い。

 俺の悪趣味な航海生活でも、一、二を争うほどの恐怖。
 悪魔のようなプレッシャーが階段を上がってくる。

 食い破られるとでも形容したほうがいいであろうか、この力の波動。

 ミシ、ミシ、ミシと階段をゆっくりと踏みしめる音が響く。
 一歩ずつ、それは近づく。
 こいつらにもようやく、それが持つ悪意を感じる事が可能になってきたようだ。

 袋から水が零れるような音に遅れて、俺の足元に液体が届く。
 誰かが失禁でもしたのであろう。
 それさえも何も思わない、寧ろ当然かもしれない。
 俺でさえ、気を緩めれば・・・

 ソレの足音が止まる。
「ダメだ……殺される」
 後続の者は全員、無様に床に這い蹲っていた。
 無理もない、俺も、もう動けなかった。

「何方に殺されるのですか?」
 ソレから発せられる音。
 音に覚えがある。しかし、安堵は感じない。恐怖が発する音だからだ。

「ニ、ニ、ニ、ニ、ニーナさんですか?」

「えぇ、そのニーナさんですよ」
 階下から現れたのは、黒いモーニングドレスに身を包んだ金髪の女性。

 彼女は、俺の副官である。

「ニニニニ、ニーナさんが乗り込んでおられるとは、初耳です」

「お呼ばれしませんでしたからね」
 大きな垂れ目を上品そうに細めて、笑みを返してくる。

 その表情に、人は何を観るのであろうか?

 肌は透けるように白いが、俺には、地獄から来た死神にしか見えない。

 大事なことなので、もう一度繰り返す。彼女は、俺の副官である。

 彼女の主な仕事は殺戮、暴力、恐喝、拷問、つまり荒事のスペシャリストである。

 スマートな仕事、国の上層部との繋がりを大事にしたい今の俺にとって、
このカードを持っていることは大きなマイナス。

 今回も彼女に休暇を取らした中での仕事だった。
 体よく追っ払ったということだ。

「こぉんな大きなお仕事があったのに、お休みをくれたんですね?」
 大きな瞳は俺の心底を覗き見ているようだ。

「い、い、いや、いや、ニーナさんの手を煩わせたくなかったんだ、煩わせるほどじゃ……」

「あらあら、お気遣いありがとうございます。で、この体たらくかい?」

 ニーナの口調が変わり、同時に俺の頬を何かが掠る。

 その何かは、俺の頬を掠めながら、カツンと壁に音を立てた。
 刺さったのであろう。床に落ちてはこなかった。

 その掠めた箇所から流れ落ちる生温かいものが、俺の頬を濡らす。

 彼女の顔を、視線を、悟られない様に盗み見る。

 上品な眼は瞳孔が開ききり、この世の生き物とはとても思えないほどだ。
 透けるように白い肌は、逸物のブロンズ像のように蒼褪めている。

「も、申し訳ありません。ニーナさん」
 俺は恥も外聞もなく、頭を下に擦り付けた。

「お前らも、お前らも、早くしろ」
 茫然と腰を落とす奴らにも、無理やり土下座の姿勢を取らせた。

「はぁ、なんてことだい。乗り込まれ、斬り押され、操舵室も奪われたんだね」
 土下座状態なので、彼女の表情は伺いしれないが、その事が幸いしているかもしれない。
 覗ける状態だったら、言葉を紡ぐことさえ難しかったであろう。

「すいません」
『すいません』
 すいませんの多重奏が木霊する。

 操舵室の彼らに聞こえようが構いはしない。
 今が、恐らく今日一番の命の危機だ。

「本物の海賊を侮っていたね」
 俺の頭の上に、重さが掛かる。
 恐らく、彼女の武器である釵であろう。
 先ほど、俺の頬を掠り、壁に刺さっている物と同一。それが頭に置かれているに違いない。
 いつでもやられる。

「甘く見ていました。ニーナさんがいなくてもどうにかなると……」

「で、ならなかったね」
 釵に力が掛かる。

「ふん、言いたいことは」
 ゴクリ、俺自身が唾を飲み込む音が、周囲に響く。

「ニーナさん、お願いします。ご尽力を」
 これが俺の本心だ。ニーナに対する恐怖に飲み込まれてはいる。
 しかし、彼女がいればどうにかなる。少なくとも、俺とこいつらだけよりは可能性が高まる。

 どれくらいの時間が流れたであろうか。
 わずか数秒だとは思うのだが、魂を握られている今、その時間は数年にも感じた。

 ふと、俺の頭が軽くなる。
「お立ちになって、艦長。以後、私を抜かすことは許しません事よ」
 俺は顔を上げ、死神の顔をマジマジと見つめる。

「本当ですか?」

「許すのは今回だけでしてよ」
 ニーナの顔はおっとりさを取り戻していた。

 俺は立ち上がり、何度も顎を下に振った。
 
「さぁ、行きましょう」
 彼女はピクニックにでも向かうような軽やかな足取りで、階上に歩みを進めた。

 階上が慌ただしい。おそらく、ポンキィも来るのだろう。

 主役は揃ったか。

「パーティですな、ニーナさん」
 ニーナの背中に投げかける
「本番に間に合ってよかったですわ。そしてあの子たちも来る」

「あの子たち?」

「私の妹と、そのご主人。来賓に名を連ねてましてよ」
 そうか、彼女達も来るのか。無様な格好はできないな。

 俺は頬を、袖で拭った。

 袖には、ねっとりとした赤い物が付着した。


5.ファムケ・ビッケル ありがとう







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