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2章 喜劇開幕 6 ファムケ・ビッケル 半月の輝き
6 ファムケ・ビッケル 半月の輝き

 私はワインを口に含みつつ考える。

 年端もいかないチミッコ四人に率いられる男たち、チミッコ海賊団。

 没落貴族、騎士の令嬢とその郎党たちか。

 先ほど、彼女はイスパニアのタベラ枢機卿の名前を発していたじゃない。
 イスパニアに対して、因縁があるのでしょうね。

「ファム、どうら? 口に合うのらか?」

 私は考えを悟られぬように、グラスに口をつけ、作り笑いを向ける。

「残念ながら私はワインの味を解しません。されども美味しいワインだと感じます」

「ネーデルラントの人間は、ワインが解らないのらか?」

「あは、ワインは飲みます。ただ私の舌が肥えていないだけ。
それに私の国籍はあってないようなもの。ネーデルラントの産まれではありませぬし」

「私たちと同じなのら……な?」

「然様でしょうね」
 この子たちには大義があり、故郷がある。

 しかし、私は思うように動き、縛られる物はない。

 もともと曇り空の様な目の色だけど、それでも私の瞳が曇るのを感じたのだろうか。

「詮索は無用だ、商人」
 さびしそうな叱責が放たれた。
 そうだ、彼女は海賊だ、それ以上でもそれ以下でもない。

「失礼をしました、海賊ポンキィ。今後いかなる御用にも参上いたします」
 私は、グラスを彼女に向けて傾ける

「うん、お前の利益と重なるときは頼むのら」
「はい、私と貴方の利益が重なるときは参上いたします」
 宝石がグラスに揺れて音を立てたかのような音を発し、彼女のグラスが重なる。

 私は暫し考えるのを止め、ワインを傾けた。




「それでな、それでなのら……ふわぁぁぁ」

 ポンキィの目がうつろになってきた。話の褄も合わなくなってきている。

「そろそろお休みになってください、ポンキィ」

「うぅ、すまないのら、明日は楽しむのら……ぞ」

「もちろん」
 使いの者が持ってきた毛布をポンキィの肩口までかける。

「とぉさま……きっと仇を討つのら……待ってるのら」
 普段気丈な長女も未だ少女。

 私は人差し指でその涙をぬぐい、席を立つ。

 三人を寝かしつけたカタラーナ、どこかで潜んでいたハンベも。

 ちなみに彼は下戸、全く酒が飲めないこの宴も苦痛であっただろうに。

「ハンベ、何をしていたの?」

「ミカエルの船は出港準備をしていません。艦装に時間がかかるはずです」

「はは、お前はおせっかいね」
 口ではこう言ったが、背中越しに賞讃の笑顔を送る。
こんな飛びきりの笑顔をサービスしても、張り合いのない無表情なんだけどね。

「ルナ氏の船は沖合で停泊中」

 わかった、ありがとう。それよりも。
「うん、何か口にしたの?」
 
「えぇ、しっかりと頂きました」

「それならよろしい」
 今度は振り返らずに。どうせ無表情だろうし。

 私達は寝こけ倒れている男たちを注意深く抜け、
円の外に立つ寝ずの番の男に「君」と声をかける。

「楽しませていただいた。ファムケ・ビッケルが礼を言っていたと言付かって」

「承知いたしました。お礼を申し上げたいのはこちらでございます」

 バッカニアベスト、腰にはカタールという出で立ちは、どう見ても海賊。

 その海賊が腰を下ろし、我々にひざまずく。
 その髭面の顔の奥には、理知の眼が輝いている。
 そしてこの訓練された礼儀の姿勢。

「騎士ね?」

「いえ……いまは海賊であります」

 俯く彼から視線を逸らし
「ふん、そう」
 私は夜空に輝く半月に目を向け、つぶやく。

「できれば、お嬢様方の良き友達になっていただければ…」
 地面から顔を上げ、私の目を見つめる。
 濁っていない義憤の目。大義がある人間の目だ。

「海賊さん、彼女らは海賊よ……私はしがない交易商人」

「……」
 言葉に詰まる彼の目を見つめる。そして、視線を月に向ける。

「彼女らが、それを望むの。望んでも言えないでしょうに」
「失礼しました……」

「協力はするわ、あくまで私の目的と利益の範疇で……だけどね」
 私は彼に背を向け、三歩歩みを進めた。

「君は生きて。彼女たちが困る」
 空を見上げて、思わず目を細める。

 ただでさえ私の細い目は、ほぼ瞼を閉じた。瞼の上からでも眩しい。

 半月なのに、その輝きは満月以上に感ずる。

「クライアントが困ると、私も困る。でしょ? 以上です」
「かたじけない」
 背後は振り返らない。

 彼がたたずもうが、跪こうが知ったことではない。
 私は水平線を望む者。偏ってはいけない、心入れは出来ない。

 噛みしめた唇から鉄の味が、口内に広がった。

 
「カタラーナ」

「はい」
 月光の下、肩口に覗く彼女の顔つきは神妙だ。

「感情移入しすぎよ」

「でも……」

「それに、昼間の失言! 命のピンチ。減棒、三ヵ月!」

「ひぇぇぇぇぇぇぇ……ちょ、ちょっと、悲しすぎます」

 私は振り向き、彼女の肩に両手を置く。
「挽回のチャンスをあげる。ミカエルの船を見張って。無いと思うが艦装を整える動きがあったら害しなさい」

「りょ、了解です! 喜んで!ファム……」
 カタラーナの瞳に瞬く間もなく液体が満ちる。
 だから感情移入しすぎなんだって。

「急いで」

「はい、失礼します」
 私の脇を小走りに駆け抜けていく。足音は当然しない。

 そう私は目的の為なら、感情に蓋をすることさえ躊躇わない。

 空を見上げる。

 もう一度思う。半月なのに、輝きが異常。

 この輝きの仕業ね。

 私は目を瞑り、零れそうなものを押さえなければならなかった。


1.ファムケ・ビッケル 夢





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